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ハート流布少年の備忘録

良いと思ったことや作品を「いいね!」と言うためのブログ

映画『この世界の片隅に』・感想

 


映画『この世界の片隅に』予告編

 

「かなしくて かなしくて とてもやりきれない」

 往年の名曲を歌うコトリンゴさんの優しくも遠くまで届くような、伸びやかな声に誘われ、観ることを決意した次第。

以下、今更ではありますが、映画『この世界の片隅に』レビューです。

今回はなるべくネタバレしないように書いていこうかと思います。

 

この世界の片隅に』ってどんな映画?

【あらすじ】

舞台は戦時下の広島・呉。「ただでさえいつもぼぉ〜」っとしている主人公・すずは4歳年上の周作の元へ嫁ぐことに。

新しい環境に戸惑いつつも、優しい義父・義母、厳しい義姉など周りの人に助けられながら生活していくすず。

しかし、戦争の被害は広島にも及び、徐々にすずの大切なものたちが失われていく。

そして、時計の針は昭和20年8月へと進んでいく……。

 

映画『この世界の片隅に』は 同名の漫画を原作とする長編アニメーション作品です。

各メディアでも、クラウドファウンディングで資金集めをしていたことや、小規模公開からのスタートで驚異的なヒットを叩き出したことで注目されていましたね。

 

ツイッターなどの評判がかなり良かったし、予告編でも笑えるシーンがあったため、戦争ものでも大丈夫だろうと軽ーい気持ちで観に行ったのですが……、そんなことを後悔するくらい大泣きしました。映画館で。

そして、鑑賞後3日間はずっとすずさんたちのことが頭から離れなくなりました。

こんな経験は初めてで、映画の世界がそのまま背後から侵食してくるような感覚を、今でも時々思い出してしまうほどです。

自分の日常に染み込んでくる……否、もともと私たちの生きているこの世界にすずさんがいたことに気づく。

その衝撃は「鈍器で殴られた」とかそんなレベルを超えて、脳みそを5万回くらい張り手されたような、とてつもないものでした。

 

 

共に生きている感覚

 この「日常の延長線上にすずさんがいる」という感覚は、私だけが得たものではなく、この映画を観た多くの人が得た共通のものであるようです。

では、なぜ私たちは『この世界の片隅に』を観終わった後、そのような印象を受けるのでしょうか。

 

その理由は、本作が入念な取材や時代考証をした上で作られたことにあると言えるでしょう。

原作者のこうの史代さんはもちろん、監督の片渕須直さんら映画スタッフも何度も何度も広島に通っては、現場の今と昔を調べていたようです。

これらの綿密な下調べをしたことで、映画の物語はより現実味のある、 リアリティに迫ったものとなったのだと考えられます。

 

 主人公・すずを演じたのんさんも、本作の魅力について以下のようにおっしゃっていました。

のん「自分も一緒に生きているような気持ちになるのが魅力なのかな」

出典:『クローズアップ現代+』(2017年1月12日放送)

 終戦からすでに70年以上経ち、戦時中の出来事はだんだんと遠い過去のことであると見られがちです。

ですが、『この世界の片隅に』では、まるですずさんという女性の人生を丸ごと自分の中に取り込んでしまったかのような感覚を持って、戦時下の人々の生活を追っていくことができます。

とことんリアリティを追求して作品を作ることで、まさに、すずさんと一緒に生きていると身をもって感じられる。

ここが本作の最大の魅力なのかもしれません。

 

 

「昔の人」は愚かだったのか

 また、鑑賞後、私は学生時代の歴史の先生の言葉をふと思い出していました。

その先生は学期末のころ、こんな話をしてくれました。

 

「たしかに、歴史上の人々は、現代を生きる私たちから見れば不合理で、ありえない選択をしていることもある。

しかし、その人たちを馬鹿するのは絶対にしてはいけないことだ。

明日何が起こるのか、私たちにはわからないのと同じように、その時代の人々は歴史上のことの顛末を知らない。

結果を知っている私たちから見れば不合理に思える選択でも、その時代を生きた人々からすれば、その選択がその時代に取ることのできた唯一のものだったかもしれない。

だから、私たちは昔の人々のことを笑ったりせず、歴史から真摯に学ばなければならない」

 

過去を生きていた人々の行動は、現代の私たちでは考えもつかないようなものもあります。

例えば、戦国時代の武士の死生観だったり、中世ヨーロッパのトイレ事情だったりは現代人の常識から逸脱しており、意味わかんなーいと感じることも多いかと思います。

私だってなぜ窓から糞尿を道路に捨てるのか、正直、意味わかんなーいと未だに思っています。
じゃあ、彼らと私たちは違う生き物かと言うと、そういうわけでもない。
私たちと同じように悩んだり、つまづいたりしながら、選択を繰り返していた、普通の人間です。
そうして、普通の人々がその時代なりの営みを育んできた過程が、いつしか一連の流れとしてまとめられた。それが歴史と呼ばれるものなのです。
当時、この話を聞いた時もハッと気づかされるものを感じましたが、『この世界の片隅に』を観て、ようやく真に理解できたような気がしています。

 

 1月12日に放送された『クローズアップ現代+』にて、こうの史代さんと片渕須直監督も「昔の人」について、以下のように言及しています。

こうの史代「昔の人は愚かだったから戦争をしてしまった。

そしてこんな生活に、っていう感じで片づけられる気がするんですけど、本当はわれわれの見たことのある祖父母は決してバカな人ではありませんでしたよね。

彼らが彼らなりに工夫して幸せに生きようとしたということをこの作品で追いかけてつかみたいと思ったんです」

出典:『クローズアップ現代+』(2017年1月12日放送)

      

片渕須直「『この世界の片隅に』という題名なんですよ。

で、描けるのは片隅にいる、さらにその片隅にいる、小さなところにいるすずさんからの目線だけなんですね。

たまたま人生の一時期が戦争中だったというだけの われわれと全く変わらない人たちであるはずなんですね」

出典:『クローズアップ現代+』(2017年1月12日放送)

 

 遠い昔の人を自分から切り離して考えるのではなく、あくまで同じ人間であったという共感を持って歴史を振り返る。

本作を観て、この共感の重要性を改めて痛感しました。

人文社会科学が軽視されがちな今、このような史学の面白さ、大切さを実感させてくれる作品が作られたことに感謝を申し上げると共に、本記事を締めくくらせていただきます。

 

ここまでお読みくださった皆さま、ありがとうございました。

 

 

公式ホームページはこちら

konosekai.jp

 

現在『この世界の片隅に』を上映している映画館の情報はこちらからどうぞ!

3月になってもまだまだ上映している映画館があるみたいですよ。

⇒ 劇場情報|Theaterpage Master

 

 


すずさんのありがとう