ハート流布少年の備忘録

良いと思ったことや作品を「いいね!」と言うためのブログ

崩壊シリーズ『九条丸家の殺人事件』がいい意味で崩壊してたよっていう感想

 

舞台美術でも特に大道具を見るのが好きなんです、私。

いつも舞台終わった後にノートに感想とともに舞台美術もメモっておくのが好きなのです。

 

『九条丸家の殺人事件』では開演前から緞帳は開きっぱなしなので、劇場に入った瞬間から観客は舞台美術を舐め回すように見ることができます。

もちろん私も舐め回すように舞台を見て、わーすげぇ!めっちゃ小劇団の大道具っぽくなってるぅ!と少し興奮気味にしゃしゃっと大道具たちをスケッチしました。

このセットで一体どんな物語が始まるのだろうとめちゃくちゃワクワクするオルタナ。端から見ていたら、スケジュール帳に猛烈に何かを書き込んでニマニマする不審者だったわけですけれども、本人は充実感に満たされておりました。はい。

 

※上記のことを頭の片隅にぽすっと置いておいて頂けると、この記事を読む時に私の感情がよりわかりやすくなると思います。

「オルタナは九条丸家の殺人事件が始まる前に舞台美術のスケッチをしていた」ということだけちょっと覚えておいてくださいね。

 

 

前置き終わり

以下、ネタバレありの感想

盛大にネタバレしているので、ご注意ください。

 

 

 

〜崩壊シリーズ〜『九条丸家の殺人事件』

 

この舞台を観ようと思ったきっかけは、好きな俳優さんが出演されているからでした。たんじゅーん。

でもね、見終わった後はその役者だけではなく、「荻窪遊々演劇社」の皆さんのことも好きになってました。

そんな不思議な引力のあるお芝居だったと思います。

 

 

失敗が失敗を呼ぶ、失敗者たちの奮闘劇

 物語の舞台は1922年12月…という設定のミステリー劇の初公演。

いわゆる劇中劇の構造になっており、役名も2つ(演じるキャラクタの名前とそのキャラクタが演じる役の名前)ある出演者がほとんどです。

 

これまでまともな上演をした事がない劇団「荻窪遊々演劇社」が満を持して上演する殺人ミステリー劇『九条丸家の殺人事件』開幕初日。セットのドアが開かなかったり、あるはずの小道具がなかったり、役者がセリフを間違えたりと、本番中まさかのアクシデントが立て続けに勃発!

それでもシリアスな芝居を必死に続けるが…舞台は奇想天外な展開に…!

*1

 

 上記のあらすじの通り、登場人物たちがとにかくミスをしていき、そのミスの一つ一つがラストに繋がっていく、というのが本作品の面白いところ。

 

キャラクタのほとんどは演技経験ゼロの素人。

もちろん皆なんとか舞台を成功させようと頑張るのですが、舞台上の失敗が失敗を呼び、キャストもスタッフもてんやわんや。

元消防士、元ホスト、元ホステス、元無職といった素人を寄せ集めて、むりやり公演しようとしているって状況からして、既に「頑張れ!予算不足に負けるな!」と荻窪遊々演劇社のことを応援したくなっちゃいますよね。

 

 

徐々に壊れていく芝居、人間関係、その他エトセトラ

キャラクタたちが舞台の上でどんどん小さなミスから大きなミスまでせっせと積み上げていってくれるおかげで、お芝居自体も壊れていきます。

シリアスなミステリー劇だったはずなのに、劇場は笑いに包まれていく……。

これ、座長の立場に立ったら、すっごいやばい状況ですね。(そこが観客にとっては笑える部分でもあるのですが)

 

さらに、神田警部役を務める本劇団の座長・栗須さんは舞台上ではしっかりしようとしてたんですけど、実生活でもとんでもないミスをやらかしていました。

なんと劇団に誘った元ホステスの里田愛さん(自称29歳)に手を出してしまうんですね〜。

しかもこの座長、舞台監督の杏里さんと長いこと付き合ってたのに、公演前日に愛さんとちゃっかりワンナイトラブかましてたんです。あらら。

このことが杏里さんに漏れ、公演初日から栗須座長は大ピンチ。杏里と愛の間で恋の百年戦争が勃発します。*2

劇団内の人間関係にも亀裂が走っていたわけです。

 

 

「どこが壊れているのか」は鳥場くんを見ればわかる

真面目、チャラ男、宝塚…適度に色付けされたキャラクタたちがそのキャラクタらしいミスを1分に1回はしていきます。とにかくミス連発。

そんなカオスな状況だと、これ今お芝居の台詞なの?それとも劇団の人々の素なの?となるシーンも出てきます。

だって、これ劇中劇なので、登場人物たちがしたかった本来の劇は観客である私たちにはわからないのですから。

 

この「え、これ、台本通りの演技なの?」問題を上手いこと解決してくれたのが、音響&照明スタッフの鳥場くんでありました。

 

鳥場くんは舞台の下手側の小さい音響照明ブースに100分間の劇中ずっーと座っていて、そこからずっーとステージを見ています。

彼は裏方なので実際の演技には加わらない。基本的にずっと見ている存在です。*3*4

 

だけど、鳥羽くんの舞台の見方がめちゃくちゃかわいい観客にとってわかりやすい見方になっていたんですよ!

 

 本作品中数少ない「芝居が上手く進行している」時には、イヤホンつけて音楽聴きだしたり、おやつをつまんでみたり……。

観客もその安心しきった様子を見て、「今この瞬間は安心して観てていいんだな」と思える。

一方、いざ芝居が崩壊しだすと、すかさずフォローを入れる。

鳥場くんが「天の声」や「Cv.鳥場明」などでキャストをサポートして、なんとか劇が進んでいくのです。

まぁ、途中でもう修復不可能なまでに劇が大崩壊するんですが、その際は「オレは関係ありませーん」とばかりに体育座りをして、自分の目と耳を封鎖。

観客がちょっと下手側に目を向ければ、現在の状況を「鳥場の目」を通して見ることができる演出になっていました。

 

つまり、

鳥場くんがリラックスしている時は基本的に上手くお芝居が進んでいて、慌てている時は「崩壊」の合図だぞっていうのが、鳥場くんの演技を観ているだけでわかっちゃうんです。

この台本考えた人ちょー頭良いなぁ。

 

最後にはセットすらも大崩壊

先述の杏里と愛の栗須座長を巡る争いは、激しさを増し、ついに劇の枠組みから飛び出していきます。

二人の乱闘は舞台にあった壁等のセットをも破壊。

舞台上は、まさに恋のグラウンド・ゼロ状態

 

その崩壊ぶりを口をあんぐり開けて見ることしか出来ない私は、劇が始まる前に取ったセットのメモを思い出していました。

 

だって、私、これ、描いたんだよ…大道具きれーだなぁっつってメモ取ってたのに……。えぇー……

全部、ぶっ壊れてんすけど……。

ワタシノ メモノ 意味 トハ……。

 

もう笑いを通り越して、登場人物たちと一緒に「これどーすんの」を真剣に考えましたね。次の公演までに大道具の修復間に合うかまで考えました。

 

壊れるって言ったって、直せる程度の壊れ方でしょ、と思ったそこのあなた。

予想できる程度の壊れ方じゃないです。

そんじょそこらの壊れ方じゃないんすから!根元からバッキバキなんすから!

使ってた小道具とか、舞台袖で休んでる元ホストまで見えるくらいに、壊れてましたから!芸が細かい!

 

 

 崩壊のその先

冒頭で九条丸家の殺人事件は失敗が失敗を呼ぶお芝居だとお伝えしました。

実は、この「失敗」というのは舞台上のミスだけではないのです。

 

荻窪遊々演劇社の皆さんはそれぞれに人生においても失敗している(と思い込んでいる)。

 

例えば、執事の金田一を演じた出水さんは元引きニート。本公演でも台詞が全て飛ぶという大失態。

座長の栗須さんに至っては、長年付き合ってきた杏里さんを裏切る浮気をした。しかもそれが原因で、初めてまともにできそうだった劇も悲惨な出来に。

 

でも、その失敗っぷりが、どこか人間くささを感じさせて、思わず「頑張れ!」と言いたくなる愛しさを生み出してくれるのです。

最後のほうは「荻窪遊々演劇社がんばれ〜!」って(「プリキュアがんばれ」みたいな感じに)声が出そうになりましたもん。

 

失敗の連続で物理的にも精神的にも(?!)ボロボロになった舞台。

それでも踏ん張って「答え」を出す登場人物たちと共に、ラストにはいわゆる「謎の感動」を味わうことができます。

 

舞台の上でも、舞台の上じゃなくても「失敗」だらけだったけど、それでも面白い。

面白いから、じゃあ明日も頑張ってみるか!

 

そんな気分にさせてくれるお芝居でした。

 

 

計算づくの崩壊っぷり

しかし、この〜崩壊シリーズ〜『九条丸家の殺人事件』の怖いところは、舞台上のミスは全て緻密な計算によって成されているというところです。

 

 

 鳥場くん役の伊藤裕一さんが上記のようにおっしゃっていますが、本当にキレーに崩壊していく。

一つ一つのハプニングがラストシーンに向かって収束していく様子は、まさに神業。

だから観ていてすごく気持ちが良いんです。

で、この崩壊っぷりが癖になって、もう一回観たくなっちゃう。

そんなわけで、当初1回だけでいっかーと思っていた私も、ちゃっかりリピーターチケット買いましたよね……。でもそのくらい気持ちよく笑える作品だったもんな。

 

公演は全日程終了してしまいましたが、

ぜひ再演、もしくは本当の意味でのシリーズ化してほしいなぁ…!*5

 

またどこかで荻窪遊々演劇社の皆さんとお会いしたい!と思うオルタナなのでした。

 

最後に…

キャストの皆さん、スタッフの皆さん 素敵なお芝居をありがとうございました!!!

 

 

その他細かい所の感想 (箇条書き)

・栗須座長の安い笑いで笑ってしまったの、不覚だった。山崎さん、本当に真面目に頑張って笑い取るぞ!って気迫がすごかったのでまた山崎さんのコメディ観てみたい。

杏里さんの「強いお酒をくださいな」ループシーンが最高に面白かった。上地さんの全力の演技、迷いがねぇ。すげぇ。

・鳥場くんが照明兼音響スタッフってところに小劇団っぽさを感じて、少しほっこりした。人手不足…

・彩吹さんの手足があまりにも長くて、タカラジェンヌ的な演技するたびに、スタイルの良さが際立っていた。正面から観たほうが、タカラジェンヌ演技がより大げさに見えて面白いかもしれない。

杏里と愛が大げんか&城山と看場で演技続行のドタバタシーンで、手錠で窓枠につながれたままの出水さんがガンガンガンガン窓枠をセットに打ち付けているのが、個人的にツボに入った。ただでさえみんなが大声でわーってなってるところを、リズムの力でさらにぶちこわすのやべぇですわ。ミシカの門が開きそう。*6

 ・看場さんの一生懸命なんだけど空回りしてる感じがすごい出ていた。声の張り方がうまいのかな。

・益谷さんのチャラさ。ああいうキャラ大好きです。特に腕立てし始めるシーンが全力おバカさんで最&高でした。

・大水さんの初登場シーンで芸人の笑いの間の取り方の凄さを実感。あまりに完璧な間だったので、息を飲んだ。まさに笑いの職人だなぁ。

・長谷川さんと大水さんのダブルキャストだったけれど、それぞれの魅力があって2度美味しいという印象。大水さんはシュッとしててキリッと笑いを持ってくる、長谷川さんは「頑張って」と応援したくなる空気を作るのが上手い(誉めてます)。

*1:~崩壊シリーズ~『九条丸家の殺人事件』オフィシャルホームページ イントロダクションのあらすじより抜粋 

*2:相対性理論恋は百年戦争を思い出す光景でした

*3:見ている演技=台詞のない演技ってすごく難しいんですが、鳥場明役の伊藤裕一さんはそれがすっごい上手かった。一つ一つの動きで「鳥場くんってこの世に実在しそう」と思わせてくれるのです。

*4:なぜこんなに伊藤さんのことを誉めているのかというと、私が伊藤裕一さんのファンだからですね。合い言葉は「伊藤裕一さんのファンです」!!!

*5:アフタートークにてオークラさんが「シリーズと銘打っているけど、実はシリーズものではない」とおっしゃっていたことから、このような表記にしました。オークラさんの原作無しの舞台も観てみたいです!

*6:ミシカの門については、こちらを参照してください レジェンド・オブ・ミシカ - Wikipedia